PIECE COLLECTOR

【九話】


「フィオナ!」


鍵を開け勢い良くドアを開け思わず声を掛けると
彼女はゆっくりと振り返り

「おかえりなさい…」と微笑んだ。

その映像に苦しく圧迫されていた胸の違和感が
解ける様に柔らかくどこかへ溶けていったのを感じた。

勢い良く声を掛けてなんだが…続く言葉が出ずに
そっと後ろ手でドアの鍵を閉めると彼女を只、じっと見つめた。

「名前で…呼んで下さるんですね…ミスター…」
「…レオン…だ。」
「……レオン…」

名前で呼ぶ事を強要され驚いたのか
しばらく俺の顔を見ていた彼女は気を取り直し…

「あ…じゃぁ…レオン?…見て!綺麗になったでしょう?
埃臭くも無いし…貴方の寝る椅子も工夫してみたの!」

そう言って嬉しそうに椅子を指差す彼女…
指の先では久しぶりに手入れをして貰い
艶を取り戻した革張りの椅子の足元に箱がいくつも積まれ…

その上にクッションがひかれていた…
きっと足置きのつもりだろう…

「この足置きは何の為に…」そう首を傾げる俺に
「ベッドで眠れないのでしょう?少しでも安らげる様に…と思って…」
そう肩を竦め、微笑む彼女に俺は思わず

「君はどこかオカシイんじゃないか…?」と呟いた。
「自分でもそう思うわ。でもしょうがないじゃない…
そうしたいと思ったんだもの…」と苦笑する彼女の胸元には
昨日…彼女が食事の時に自らの手を拭いた汚れが付いていた。

「折角部屋を綺麗にしてくれたのに服…着替えないと…その服、脱いで。」
そう言って彼女の服を指差すと

「いやよ!」と首を振る彼女
「家に女性の服が無いんだ。それを持って服屋に行けば
サイズが分かるだろう?そんなボロ布でも惜しいのか?」
そう言うと彼女の頬は真っ赤に染まり

「この下…何も着てないもの…」
「…それが何か?」
「え!…だって…恥ずかしい…」
「…何の話をしているんだ…?」

「自分の裸を貴方に見られるのが恥ずかしいのよ!」

言い合いの末、声を荒げる彼女に思わず首を傾げ
「…俺にはそれが何故か分からない…この家の人間は皆…
四六時中裸で獣の様な声を上げていたから…」
そう首を捻ると

「普通はそんな事しないの!見られると恥ずかしいものなの!
裸は…一番大事な人にだけみせるものよ!」
「道端で出会う女もすぐに脱ぐが…」
「それは貴方がその人にとって魅力的だからよ!」

そう刺す様な瞳で俺に吐き捨てる彼女に向かって
思わず一歩踏み出すと彼女は自らの体を抱きしめ
ぐっと身を縮ませた。

チクリ…と何かが俺の胸を突き刺し痛みが走った。
どうしてだか分からないが…彼女のこの姿勢が
不愉快で仕方なかった。

俺は自分の着ているカッターシャツを脱ぎ彼女に投げると
「とりあえずこれを着れば良い…服…買ってくるから…」
そう言い残し部屋を出て鍵を閉めた。

本当ならば自分の服を貸すにも新しくクリーニングしたやつを
渡せば良かったのかも知れない…でも…どうしてだろうか…

どうしても…自分の温もりの残るシャツを…
彼女に着て欲しかった。
俺が着ていたあの服が…彼女の体を包むと思うと…
背筋がゾクゾクとする刺激が駆け抜け…興奮した。

どうにもならないその衝動に思わず隣の部屋に入ると
彼女の居る部屋と繋がっている壁に背を預け…
ズボンのチャックを下ろした…その時背中に違和感を感じ…
振り返るとソコには小さな絵が飾っていて…
それが左右にゆっくり揺れていた。

チラリチラリと見え隠れする壁の後ろに
ほんの小さな黒い点が見え、気になった俺は
その絵を壁から下ろした。

予感があった。自分があのベッドに居た時は
何処かしらから妙な視線を感じていたからどこかに
こういったものがあるだろう可能性は十分にあった。

だが…まさかココにあるなんて…思いもしなかった…
だってここは…‘母’の部屋だったから…
俺の事を…まるで見なかった彼女が何故…こんな…

そんな事を考えながら…隣の部屋から聞えてくる衣擦れ音に
導かれる様に俺はその覗き穴からそっと隣を覗いた。

俺は一体何をしている…覗きなんて狂った行為…
まるで生前の父の様ではないか…

そう心の中で抗うも…衝動には勝てずに只、じっと目を凝らす
…とソコにはベッドに座り…何か考える彼女が見えた…

しばらく考え込んだ後…
そっと自分の衣服に手を掛けスッとそれを床に落とした。

本当に…下に何も着けて居なくてその布を一枚床に下ろした後は
隠すモノも無い…生まれたままの姿の彼女が居た。

気が付いたら俺は夢中になって自らのモノを摩擦していた。


堪らなかった…


白い肌…桃色の先端…淡い茂み…そして…
誰も居ないとわかってる筈なのに…その自らの姿を恥じらい…
両手で隠すその仕草に…

成す術もないまま…汚らしい行為と分かったまま…
彼女に対しての侮辱だと自分を罵りながら…

俺は自らを快楽に沈めた…

何処かで父が嘲笑っている声が聞えた気がした。



オマエニモ オレト オナジ チガ 

ナガテレイルダロウ…?


狂った変質者!罪深き快楽主義者!
俺はそんなじゃない!そんなじゃ……っ!

心の声を戦いながらも手を休める事無く
快楽に沈める事を促す目の前の光景…

白いシャツに透けた彼女の体が何とも官能的で…
ソレを手で隠す仕草が愛らしくて…清くて…美しくて…



ヨゴシテ ヤリタク ナル 



自分の熱に籠もった欲情を全て吐く出すと
ソレを拭きながら俺は自分を責めた。

最低だ…俺は何て事を思ったんだ!
あんなに嫌っていた父と同じじゃないか!
罪深い!罪深い事を!俺はなんて穢れてるんだ!

本当に…‘悪魔の子’の名にふさわしくなってしまった…

そう頭を抱えながらも身なりを正し…新しいシャツに着替え
彼女を…正確には彼女の着替えた服を迎えに行った…が…
ドアの鍵を開けると彼女はシーツにグルグル巻きになり
俺に黙って服を渡した。

俺はその意図を分かってわざと「どうした?」と問うと
「あの…この服…透けるんです…」と頬を赤くする彼女に
「…何が透けるの…?」と追い討ちをかけた。

真っ赤になり…まるで魚の様に口をパクパクさせ
「え…あの…その……」
と何とか言葉を紡ごうとする彼女に自分の中の何かが
グラリ…と揺れ…取り返しのつかない事をしてしまう予感がしたので

「とりあえず…行って来る…」と彼女から服を引ったくりドアを閉めると
一目散にそのドアから離れた。

どうも彼女と会ってからの自分はオカシイ…
静かだった心の中に波紋が広がり…大きくなって…


それから…


それから…


俺は一体どうなってしまうのだろう…

【続く】
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