PIECE COLLECTOR

【第二十九話】



一人のカメラを持った人が動かない彼の顔にカメラを近づけ
「これは大スクープだ!悪魔の館の崩壊だ!」とシャッターを切ろうとした。

「止めて!彼を…彼をそっとしておいてぇぇっっ!」
と叫び、制止すると
「この血みどろの殺人鬼を庇うのか?さてはお前も共犯か!」
と私にカメラを向けた。

「よせ!彼女は被害者だ!」
そう言って警察がカメラマンを制止しようとした瞬間
私の手は記者の頬を叩いていた。

誰も分かってくれない…
何も分かってくれない…

無神経に切られるシャッターの音が…問いかけが…
五月蝿くて…五月蝿くて…
まるで何千もの鳥の鳴き声にでも包まれているようで…
何が何処にいるのか…どちらが空で地面なのか…


全てが遠く…‘どうでも良い事’になった。



何も知らないくせに…

彼がどんなに無垢であったか…
彼がどんなに愛に飢えていたか…
彼がどんなに素敵に笑うのか…
彼がどんなに……



……どんなに……



……どう…して…


どうして…こうなってしまったの?
どうして…彼は罪を犯さないといけなかったの?
どうして…私は生きなくてはならないの…?
どうして…?……どうして…?





どうして貴方は私を殺してくれなかったの…

…レオン…

…ねぇ…


こうなる事を分かっていたのなら
貴方の手で…連れて行ってくれたって…良いじゃない…
意地悪レオン!馬鹿!大嫌い!

永遠に愛してるって…
逃がさないって言ったじゃない!
嘘つき…


光の点滅の中スローモーションで白くなっていく景色…
思い出したくも無い記憶がフラッシュバックした所為か

我にかえったものの不意に眩暈がしてフラフラと壁に近寄ると
そこにあった窓からチラリと下の景色が見えた。
そっと覗き込むと何十人ものマスコミらしき人間が
まるで集められたゴミの様に集まっていた。

ここから飛んで…巻き沿いにしてやろうかしら…
そう思ってその窓の枠に手を掛けた…瞬間
肩に暖かい手が掛かり驚いて振り返ると
警官らしき人が立っていた。

「そんな様子だとまた拘束されちゃいますよ?お嬢さん。」
そう微笑んで話しかけてくる彼に
「…外の景色を眺めてただけ…」と素っ気無く返した。
「病室から出てもマスコミに追い回されるだけですよ?」
「……新聞…新聞が欲しいの…」

本当は特に何も欲しくなかったが
ウロウロして気分を落ち着かせたかった
今の雰囲気では病室に連れ戻されそうだったので
口実として言っただけだった…が…

「そう言うと思って持って来ましたよ。少しでも心の整理になれば…」
そう言って不自然に微笑む警官は私の背中を押し、病室へ導いていった。

病室前を良く見るとドア横にパイプ椅子が置かれていた。
警官は私をドアの前に立たせるとスッとその椅子に腰を掛けた。

…要するに見張り番…出歩かれては管理出来ないから
病室内に居て欲しいのだ…

座った彼は何社もの新聞を私に渡すと
「他に何かご入用ならおっしゃってください。」
そう微笑んだ

返す返事も見つからず、只軽く頷くと
ドアを開けベッドに腰を掛け新聞を読んだ。

「猟奇快楽殺人鬼 死す」
「因果応報 モンスター 銃殺」
「安堵する街 ロンドン ジャックザリッパー2世 死す」

いくつもの新聞社が彼を叩き、血まみれの彼の
穴の開いた体を含め、よりグロテスクに演出し書いた。
被害者達も同じ様に惨殺された肉体を「被害者A」として掲載した。

ライターだって商売だ。面白く衝撃的な記事を書いて
売り上げ部数を伸ばさないといけない事ぐらいわかってる。
でも…衝撃的な映像や描写ばかりで…それを除けば何も無い記事だった。

「馬鹿みたい…」

そう呟きながら他の新聞も見たが全部似たり寄ったりだった。

只、一社。

一社だけが被害者の生前の綺麗な写真を掲載し
生前の‘生きていた様子 人間性’を書き…
どうしてそうならなければならなかったのか…と嘆いた記事を
載せてある新聞があった。

レオンの事も同じく
「優秀な家に生まれたエリート どうしてこうなったのか…
何が彼をそうさせたのか…」と‘
娯楽’ではない真摯に対象に向き合う様な記事を書いてくれていた。

たったそれだけ。きっとそれが当たり前で…
他のゴシックがおかしいだけ…そしてそんなゴシックにばかり
関心をそそられる人間達がオカシイだけ。

…なのに嬉しくて…嬉しくて…
涙が溢れて…止まらなかった。

不意にノックが聞え…返事が出来ずに居ると
さっき新聞をくれた警官が病室に入ってきて
しゃくり上げ泣く私をじっと見た。
【続く】
web拍手 by FC2
↑back to top
携帯ユーザー移動用
【NEXT】/【BACK】/【PIECE COLLECTOR MENU】/【GALLARY MENU】/【SITE TOP】

ランキング(お気に召したら是非ワンクリック)
小説・詩ランキング
↑back to top
Designed by I/O inserted by FC2 system