PIECE COLLECTOR


【第二十八話】



レオンが部屋のドアを閉めて何分経ったか…
突然「パーーーーーーーンッ!」と
玄関辺りから大きな乾いた音がした。

「これがいつかレオンの言ってた‘アフターファイアー’かしら…」
そう呟き、胸に沸き起こる妙な不安をかき消そうと
部屋を見渡した。

ふと見るとサイドテーブルにいつもは無い筈の
手錠の鍵が乗っている事に気が付いた。

こんなにずさんな拘束だと…すぐ逃げれちゃうのに…珍しい…
…まぁ…逃げる気は今更無いけど…レオン…疲れてるのかしら…
手錠解いて…帰ってきたら自由になった両手をヒラヒラ見せて
「脱出成功!逃げちゃうよ?」何て…からかって見ようかな?

クスリと笑いながら器用に足を使って取ろうとしたが
なかなか取れるものではなく何十分も苦戦し、やっと取れた。
頭上で自分を繋ぐ手錠の穴にその鍵を突っ込んだ瞬間…

激しい音を立てて武装した警官達が拳銃を片手に
「MPD(我々は首都警察だ)!MPD!」と口々に叫び
ドタドタと家の中に入ってきた。

一人の警官がベッドに未だ拘束されている私を見ると
無線で生存者一名がどうのこうのと誰かに伝えた。

呆然とその様を見ていると「もう大丈夫だから…」と
私の手に掛かった手錠を見て…鍵が刺さっている事に一瞬首を傾げて
「あぁ…そうか…頑張ったね。もう少しで自力で脱出してたんだね。
もう君を危険に晒す人間は居ないから安心して…」

そう微笑むと私の頭を撫ぜながらシーツで体を包んで起してくれた。



もう危険に晒す人間は居ない…?



危険に…


それって…まさか…レオンの事…?


居ない…?



……居ない…?



それって一体…どういう事…?



頭が真っ白になった…
いっそこのまま倒れてしまいたかった。
嫌な予感が的中したとしか思えなかった…
その予感に思わず激しく体が震え…止まらなかった。

「可哀想に…怖かったんだね…」
そう優しく言って体を擦ってくれた警官は
私の体をシーツでグルグル巻きにしてそっと肩を抱き
「歩ける?」と問いながら歩く様にエスコートして
玄関まで連れて行った。

玄関から少し出た道路は血の海で…そこから点々と血が垂れたその先の脇には
ビニールシートで覆われた何かがあった

「すいません…あれは?」と警官に問うと
「見ないほうが良い。」
「何なんです!?」
「犯人だよ!君をこんな目に合わせた忌々しい殺人鬼だ」

「殺人…レオンの…事?」
「そう。だからもう大丈夫…彼は死んだ」
そう忌々しそうに吐き捨てた警官を思わず突き飛ばした。

何かの金属音だろうか…

壊れたオルゴールの音だろうか…
けたたましく不愉快な音が頭の中で鳴り響き耳を押さえた。


「レ…オン…レオン…嘘よ…さっき…帰ってくるって…」

混乱した意識の中でそう呟いて初めて気が付いた。
いつもは帰ってくると…逃げないでと…そう言って部屋を出る彼が
今日はただ一言…「愛してる」とだけ言って出て行った事を…

警官の手を振り払ってビニールシートに駆け寄ると
一気にそれを剥がした。


私はその時の光景を一生忘れる事は出来ないだろう…

まるでマネキンの様に倒れている…彼の胸に大きく開いた二つの穴…

見開かれたまま虚空を見つめる光を失った瞳のその端には
見たことも無い彼の涙が沢山溜まっていた。


「…!!いや…嘘!嘘よ!これは夢よ!起きて!起きてレオン!
い…いやぁぁぁぁぁ…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
何度も何度もその体を揺すったが何の反応も無く
只、いつもよりも低すぎる体温が私に現実を見ろと言っていた。

「いやぁ!死なないで!傍に居て!一人にしないでぇぇ!!」
そう言って泣きながらその体を揺する私を
何時の間に来たのか大きなカメラを持った人の群れが
激しいシャッター音を鳴らしながら騒ぎ立てていた。

マイクを向けられ…彼らは私に口々に質問していた様だったが
私は只、彼のどんどん冷たくなっていく真っ赤な体を
もう一度暖めようと擦りながら胸に抱きしめた彼の名を繰り返していた。



きっとこれは何かの悪い夢で…
目が覚めれば私の隣には優しく笑う彼が居て…
「ここに居るじゃないか…」なんて言って優しく馬鹿にするんだわ…
そうこれは夢で…夢で…こんな世界早く壊れればいい…
私は早く目が覚めて…


カレニ ゴハンヲ ツクッテ アゲナクチャ…


…気が付いたら目の前は真っ白の天井で
体を動かそうとして自分がベッドに拘束されてる事を知った。

「何だ…夢だったんじゃない…」そう笑う私を
レオンでは無い…真っ白な白衣を着た男の人が覗き込んだ。

「不自由な格好をさせてすまないね。Miss…え…と…」
そう言いながら手元のカルテを見ながら話した。
「そうそう。フィオナ・レッドフォード…Missフィオナと呼んでも?」
「……はい。ソレより…私は…?」

そう彼に問うと表情を曇らせて
「覚えて無いのかい?…君は保護されてからずっと暴れて…」
「すいません…覚えてないです。あの…レオンは?レオンはどう…」
「犯人なら死んだよ。君はどうやら重度のストックホルム症候群で…
まぁ…長期間に渡り引っ張り回されたのだから仕方が無いんだが…」

困った顔でそう言うと私の頭を撫でながら
「もう全て終わったんだ。時間が解決するさ…」
そう笑う彼に
「解決って何ですか…」と呆然と呟いた。

拘束されて身動きの取れないまま私の目尻から転がり出る涙を
そっと指先で拭った医者らしき男は
「解決とは…ふむ…そうだな…彼を忘れる…という事かな?」
と悲しげに言った。

「忘れる訳!忘れられる筈など!」
「今はそう思うだろうが…結局は錯覚なんだ。彼がもう居ない今…
きっと君は忘れる事が出来るだろう。」

そう言って私の頭をポンポン叩き
「少し…落ち着いた様だから拘束を解く様、看護士に言っておくよ」
と言いながら彼は去って行った。

しばらくして医者の言った通り看護士が来て
自分の体を自由にしてくれた。
未だ取れない体への圧迫感に思わず体をあちこち擦りながら
フラフラと病室を抜けマップを見て玄関に向かった。

現実がどれか分からなかった…
‘今’が悪い夢としか思えなかった。
でも記憶の最後の彼の体は完全に冷たく…硬くなっていた。
今でも手に残るその感触にじわっと記憶が呼び出される様に
少しずつあの時の場面が蘇ってきた。

【続く】
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