PIECE COLLECTOR


【第十三話】


「…くっ!!…ゃ!止めろ!…止めて!はなっ…離せ!
…俺に!…俺に触るなぁぁぁぁ!!!うぁああぁあああぁあぁああ!」



真っ暗闇の中…珍しく夢に取り乱し…自分の叫び声で目が覚めた。
息を整えながら自分の顔をさするとよっぽど嫌な夢でも見ていたのか
汗でびっしょりと濡れていた。

彼女と逢うまではこんな事無かったのに…
そう思うと自分の中に起きる変化に日に日に恐怖さえ覚えていた。
それでも後悔はしていなかった…彼女が居ない生活なんて…
もう考える事さえ出来ない。

それでも彼女は…俺の傍をいつか逃げていくのだろう…
永遠など苦しみの中でしか存在し居得ない他愛も無い只の定義なのだから。

そんな事を考えながら自然と俺の足は、目の前の…
彼女が眠るベッドへと向かっていた。

そっと覗き込むと俺の叫び声で起してしまっていたのか
彼女はその大きな瞳を開け…

「眠れないのね…レオン…」と寝起きのかすれた声でそう言った。
「…嫌な夢を…見たらしい…起こしてしまったね…ごめん。」
そう謝ると月明かりを頼りに俺の手を探し出しそっと引き寄せ
俺の頭を捕らえると自らの肩に引き寄せ…俺の頭を何度も撫ぜた。

「どうしてなんだろう…フィオナ…君に触れられると
俺は凄く温かく…溶けてしまいそうになるよ…」そう笑う俺に
「それがもし‘安心’とか‘信頼’だとするなら…とても嬉しいわ。」
と微笑んだ。

自分の頭を撫ぜる彼女の手を取ると
それを頬に当て、その柔らかさを味わいながら…
「ずっと…傍に居て欲しい…」と懇願すると

「必要としてくれる限り…私はココに居るわ…」

事も無げに言った彼女に
胸がぐっと押しつぶされる様な苦しさを感じ
つい…

「…嘘つき…」と呟いた。
「嘘じゃないわ…他に行く所ないモノ!」
「行く所が出来たら…」
「だったら!また手錠でも何でもつければ良いじゃない!」
「…俺は…もう!…」

…その先に何て続けようと思ったのかは自分でも分からなかった。
でも俺はそんな事を望んでた訳じゃ無かった。
俺が望むものを何て表現したらいいか分からなかった。
…結果、不審に黙り込むしか手立ては無かった。

たまに二人の間に訪れるこういう変な雰囲気が
俺の神経をイライラさせた。
彼女に対してではなく…自分に対して…

俺は今まで優秀なつもりで居た…のに
どうしてこんな事さえ分からない!

彼女にどう言ったらこの胸の内はスッキリするのだろうか…
どう表現したら彼女に伝わるだろうか…

いくら思考に落ちても答えの欠片すら見つからずに
困って彼女の手を取り再度自らの頬に当てた。

「ねぇ?レオン…貴方は私が離れて行く事ばかり考えるけれど…
貴方は私から…いずれ離れていってしまうの…?」
「そんな事が在る筈無い!君が居ないと困る!俺は…俺は!ずっと!…」

そう言ったまま再び言葉を失い黙り込む俺の頬を撫ぜて
「分かり合うのは言葉だけとは限らないわ…ねぇ?レオン?
貴方はどうしてもベッドでは寝たくないの?」と問う彼女に
「寝たくない…では無いよ。寝られないんだ…」と苦笑した。

不意に手を強く引っ張られ俺はベッドに倒れこんだ。
驚いて固まった俺にそっとシーツを掛けて俺の両手をぐっと握った。

「よく…お世話になっていた孤児院の人がこうしてくれたの…眠るまで…
傍で手を繋いでくれたわ…どんなに淋しくてもこうして貰うと
不思議と寝られるのよ…レオンは…どうかしら?」

そう言う彼女に「俺はそんな単純じゃないよ…」と笑って
そのまま他愛も無い話をしている内に


俺はスーッと何かに沈む様に…



深い深い眠りに落ちていった。





+++





「…ォン…レオン…?いつまで寝るつもり?」

そんなフィオナの声に揺り起こされて…
ぼんやりした意識の中から少しずつ戻った俺は
勝ち誇った彼女の表情に赤面する羽目になった。

「だぁれが単純じゃない…ってぇ?」
「いや…だから…っあのねぇ。」
「すやすや寝て…寝言まで言ってたわよっ!」
「っ!なんて…?」

そう真面目な顔で聞く俺に彼女はフッと軽く笑うと
「私の名前を呼んでたのよ!レオンは甘えん坊さん!」

そう歌うように言いながらベッドを跳ね起きると
彼女はドアを開けて下に下りてしまった。

しばらく呆気に取られていた俺はからかわれた事に気が付くと
まるで鬼ごっこか何かの様に彼女の後を追い、
一階の彼女の鼻歌の聞えるキッチンへ走っていった。

思い切りドアを開け、
「何故名前を呼んだだけで甘えん坊扱いをされないと…」
と抗議しようとすると
「私の名前を呼んで‘行かないで…’って言うからよ。
抱きついても来たわ」

そう笑う彼女に俺は抵抗も出来ずに赤くなって俯いた。

「…怒ったの?…勘違いしないで…嬉しかったから…からかうのよ?
貴方が私を抱きしめて寝てくれたから…私も沢山寝てしまったわ」

そう優しく諭しながら俺の頭をちょいちょい…と撫ぜて
「初めて見るわね。レオンの寝癖…」と微笑む彼女に
「凄く…ベッドが居心地良く感じたよ、フィオナ。ありがとう。」
と微笑み返した。

そして続く相変わらずな生活…
これを切欠に一緒のベッドで毎日手を繋いで寝るようになった俺は
あまりの安心感に…しばらく惰眠を貪っていたものの
そうそう眠ってばかりもいられず…少しずつ程よい睡眠時間になってくると
頭をもたげて来たあの…忌まわしい感覚に苦しみ始めた。

傍に居る彼女の寝顔の無防備さに…
密着した肌の温度に…そのじわりと滲む寝汗の香りに…
そしてその小さな口から漏れるささやかな寝息に…

俺は…頭がどうにかなって終いそうな程…
膨らみ行く暴力的な衝動を感じ、毎晩頭を抱えていた。
それならもう別の部屋で眠れば良いんだろうが…

一度得た快楽は手放しがたく…
それでも何とか離れようとする俺に彼女は
「一人で寝るのはもう淋しくて嫌よ…」と笑った。

あぁ…俺はこの誘惑に抗う術を持っていない…
彼女の傍は悲しい程に暖かく柔らかく…愛しかった…。
所詮俺もあの‘両親の子供’だと毎日毎日を責めて過ごした。


今日も無事に済んだ…
明日もどうか彼女は無事であります様に…


毎朝、毎朝そんな事を願った。
彼女を暴走する俺の犠牲になどしたくは無かった…

彼女は…今となっては大事で…大事で…俺の
他に変える事も出来ない程の大きな存在になっていたから…
【続く】
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