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オーティスの父が書いたと見られる手紙…の断片。
【新人ノートから抜粋】その二


親愛なる××××××××へ
元気にしてるか?俺は元気だ。
今日はとても嬉しい報告があって手紙を書いたんだ。

大学で君と過ごした時間の中で俺は何度も零したと思う。

父がどんなに執拗な性格をしているか…
厳格を通り越した教育を受けていたか…
何をするにも逐一時間を決め
(排泄の時間さえ自由にならないんだよ信じられるかい?)
一秒でも遅れると俺に何度も鞭を打った。

何度謝っても「お前が大事なモノを失わない様に仕方が無い」
と狂った様に神の名の元にその腕を振っていた。

「約束を守れない者は大変な目に遭う」
これが彼の口癖だった。この言葉を何度も何度も繰り返した。

まるで何かの魔法にでも掛かっている様に…
小さな頃は隣の席の女の子が俺の気を惹く為に
俺の教科書を破った事さえ「物を大事にすると言うのは約束だろ?」
と激怒された。

事情など聞いて貰えなかった。俺の所為では無いのに…
大きくなった頃は結婚もしていない女の体に触れた…とか
授業中に何度黒板でない方を向いた…とか…
大学にまで監視に来ていて…もう狂ってるとしか思えなかった。

俺が裁判官になった後など尚更酷かった。
あの判断はどうだったとかこうだったとか…
俺だって何度も考え、悩み、自分の心に何度も尋ね、
出した結論に鞭を打たれると言う何とも報われない日々だったよ。

血の繋がった肉親とはもう少し温かい繋がりがあるモノじゃないのか?
俺が裁判越しに見てきた家族はもう少し位は温かく見えたものだ。
俺と彼との繋がりは鞭だけだった。罵り言葉だけだった。
彼は俺を叱り躾ける以外は何も話さなかった。

正直邪魔で邪魔で仕方無かった。
息苦しくてしょうが無かった。
彼が俺に名門の名欲しさに娶らせた女さえ
地味で大人しくてつまらなかった。

今も彼女は父と教会へ行き祈りを捧げてるよ。
神が何をしてくれると言うのか…生きる理由など
存在すら疑わしいそんなモノに委ねてどうなると言うのか!
俺は父さえ居なければ楽しい人生を送れると言う
自信があった。

彼さえ居なければ…
俺は悪魔にも祈った。
テーブルの上に赤い布を引きその上に生きた山羊を繋ぎ
祭壇を作り十字を反対向け、それに汚物を塗りたくり
(神を冒涜すると悪魔が喜び姿を現すと書いていたのでね)
山羊の血を流させて俺は黒い背表紙の本通りに呪文を唱えた。

すると…


何も出なかったのだが…(ドキドキしたかい?)
父はその翌日階段から落ちて死んだ。
何の所為かは分からない。彼自身、疲れて
足を滑らせただけかも知れない
とりあえず俺は自由になった喜びを今、
噛み締めているところさ。

で、葬儀も終わったので自由を満喫すべく
俺は父のきつい呪縛を解いて行こうと思う。
つまりは全ての約束を破っていこうと言う所さ。
まずは一番叱られた姦淫…
色々考える内に一人で楽しむのは勿体無いと
他にも声を掛けた。つまりは秘密クラブの立ち上げさ。

‘楽しい’事なら何でも在りの享楽の楽園を作ろうと思っている。
沢山の著名人も招待した。出席の返事を沢山戴いているよ
皆、退屈してるんだね。仲間が一杯で実に嬉しいよ。

君もどうだい?きっと楽しいよ。
それに出世への糸口になるんじゃないかな?
君の会社のトップも来るそうだ。

紳士淑女の社交場だ。体も常識も全て脱ぎ捨ててしまって
何も飾らずに…全てから自由になって見ないか?
良い返事を待ってるよ。

追記:もし来るならばこの下に書いてるバフォメット
(山羊の頭を持つ悪魔)の絵を切り取って
俺の家まで持ってきてくれ。それが入場券だよ。


×××××・オーティス
(ここから先は破られていて解読不可)

この本の持ち主は昔起きたかの有名なオーティス家での
スキャンダラスな事件にて死亡している。
この手紙を切欠に彼はこの会に出席し初めたのだろう。

そしてあの惨劇に至る…と言った所だろうか…
私を出迎えてくれたのが若いご婦人だった事から
この持ち主は夫婦揃って出席していたのだろうか…
若いご婦人はとても不愉快そうに…
まるで床に捨てる様にしてこの本を私に渡した。

その際、「またこの件を蒸し返すおつもりですか…?」と
問う彼女の瞳は酷く怯えていた。

彼女もまたあの過去のオーティス家でのスキャンダルの時
マスコミからの過剰なバッシングからの被害者で在ったのだろうか…。

「分からないが…こちらへの被害は無い様に善処します。
貴方に罪は無い…罰を与えられるべきではない。」
そう告げると
「そうで無いとしても…罰は与えられるモノの様ですわ…
父と母が…神に背き悪魔を信仰した事を今は間違ってるとは
言えなくなりました…神は誰も救わない…勿論悪魔も…ですが…」
と彼女はうな垂れた。

情報(マスコミ)は理性さえ失い快楽(好奇心)に走ると
人の心なんて…体なんて簡単に殺してしまう。
この女性はまだお若いと言うのに瞳は濁り
その中から希望は感じ取れず…只遠くを
虚しく見つめるだけだった。

警察だってどちらかと言えば情報(マスコミ)と同じ分類に
属するのであろう。人を暴き、人を疑い…人を追い詰め
捕らえるのだから。

今だって彼女の古傷に触ってる事も知りながら
その古傷から何かヒントを得ようとしていた。
同罪だ。何も責められはしまい。
そんな俺が何も言える訳も無く…出来るのは只、
彼女に礼を告げ、背を向け去るだけだった。

それにしても彼の祖父はあの事件(双子の片割れ死亡)から
両親からどんな扱いを受けていたかは分からないが
息子にも制裁という名の(虐待)をしていたらしい。

虐待と言うのは連鎖を起すらしい。
つまり虐待をされていた人間は自分の子供
ないし伴侶に虐待をする可能性が高い…と言うのが
定説だと署に滞在していたカウンセラーが言った。

虐待する親自体が、その親に愛されて育っておらず、
子供の愛し方が解らず虐待を繰り返す
子供は親を基準(鏡)にして育つ為
その子供が親から虐待を受けた場合、
無意識的に「虐待する事が子供の育て方」とインプットされる

…と言うのが今の所の理屈で在るらしい。
オーティスはそんな父に育てられ…狂ってしまったのだろうか…
それとも育てる…と言う程、父に向き合って貰えなかったのだろうか…
感情は親や近しい人間が教えないと育たないものらしい。

その感情を教えられる事無く苦痛だけを与え続けられていたとしたら…
シンシアを始め他の被害者達の殺害跡には
加害者の何の感情も見られない…と鑑識は俺にぼやいていた。
ためらい無くナイフが引かれ、切り裂かれた傷口…
手際よく切り取られた体。

調べれば調べる程、俺には彼が怪しく見える。
それは果たして警察としての客観的な勘だろうか…
それとも…心の何処かで感じてる…虚しい嫉妬で歪められた
願望だろうか…

彼女が彼を誘ったと言う事実が写真の中の
端麗な顔をどうしても歪ませて見せるのかも知れない。
もう少し…周りを探ってみよう…。

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