PIECE COLLECTOR

【六話】
*いつもの事ながら特に今回は非常にショッキングな表現を含まれております。ご注意下さい。




目の前では揺ら揺らと陽炎が動いていた
青く青く揺らぐそのグラデーションは
まるで俺を手招きしている様だった。

ゆっくり足を踏み出すとそこは水面で…
俺はゆっくりその青い景色に飲み込まれていった。

特に抗うでもなく飲み込まれるままにされていると
ここは海なんだろうか…足の下に人々の群れが見えた。
腕を組みそれを観察していると彼らは凄く楽しそうに笑っていて


それはもう楽しげに笑っていて…


狂ったかの様な笑い声で…



その狂った様に笑う声が五月蝿くて…



五月蝿くて…五月蝿くて…

気が狂ってしまいそうに五月蝿くて…

思わず耳を塞いだ。




――――瞬間……世界は暗転し、スイッチした。


背中にクッションが当たって…見覚えある風景だ。
目の前には見慣れた天井があって
自分の寝室で俺はベッドに…仰向けに飛び込んだのか
スプリングが揺ら揺らといつまでも揺れていた。

その姿勢のまま周りを見渡すと人だかりが出来ていて…
何人もの仮面をした紳士淑女が俺を指差し笑っていた。
父が俺の腕を引き、ベッドから起すと燃え盛る暖炉まで
上半身の晒された俺を引っ張り皆に拍手を求めていた。

俺は何やら叫び、暴れるが…屈強な男二人に拘束され
どんなに抵抗しても動ける事は無かった。
俺の周りを取り囲む大人たちは盛大な拍手をして
それを満足げにみた父は微笑み、頷くと…

俺の二の腕を掴み…

目の前の暖炉の燃え盛る炎に肘までを
躊躇する事無く突っ込んだ。


叫び声さえ上げれずにじりじり焼けていく
自分肉のニオイを感じながら
電気の様に背中を駆け回る激痛…

その苦痛に只…
言葉にならない声を発し体を痙攣させた。

父が手を離し、俺は身を引き転げまわると
その苦痛に失禁をしてしまった。

「悪い子だな…お仕置きが要る様だ…」

そう言って未だ収まらない苦痛に身もだえする俺を
二人ががりで押さえ込みその背に鞭を何度も何度も打ちつけた。

「っぅぁぁ!止めてぇ!赦してぇぇ!…っあ…ぁぁ…!
父さん!もう止めて!っぁあああっ…!もう…もう…」


―――もう…いっそ殺してください…


心の中で俺はずっとそんな事を唱えていた。
でもきっとそう言った所で彼らはもっと酷い拷問を
俺に架せるだけだろう…

楽しいのだ…俺が苦しむのが…身悶えるのが…泣き喚くのが…
苦痛も…快楽も…ココには享楽に繋がるモノなら何だってあった。
彼らはそういうモノを探求して退屈を凌ぐ集団なのだ…
本当に…世界は何て歪んでいるんだろう…


俺はどうして…産まれてしまったんだろう…


何度も何度も鞭を打たれ、血の滲んだ背中を
羽でゆっくりとナゾル男…

その苦痛に身もだえ、叫び…涙を流すと…

それを見た父を含め大人達は腹を抱えて笑っていた。
そして何人かの男達がそんな俺に欲情したのか裸になり
俺を脱がすとベッドに押さえ込み俺を…嬲り、犯し始めた。

そんな押さない自分が泣き叫んでいるのを
ベッドの脇で只、じっと見ていた。


そうか…俺は今、夢を見ているんだ。
これはもう昔の話じゃないか。

もうあの五月蝿い人達も…父も…母も…
居ないのだから…

もうあんな狂宴は二度と開かれないのだから…

あぁ…静寂って何て良い物なんだ…
死って素晴らしいものだな…


こんなにも開放を与えてくれる…


安心を与えてくれる…


俺は彼らが生きてる間ずっと…それを望んだが
与えて貰える事は無かった。
彼らが居なくなって特に…もうソレを望む事は無くなったが

「…もう殺して頂戴!」

そうベッドの中で悶え、そう願う女達に俺は…
‘安息’を与えるのだ。法律ではそれを‘殺人’と呼ぶだろう。
そして俺を‘殺人鬼’と呼ぶだろう…

法は決して人の心を救わない。
何時だって建前だけを守る。
その建前に守られて俺は今まで無実になってきた。

捕まってしまえれば良いのに…自分の体の事情が
それを中々赦さない…

俺は世に放たれた‘死神’なのかもしれない…
だったらせめて執行により出来た骸を
次の‘生きたい人間’の為のステップにしても構わないだろう…?

そう…ずっと思ってきた。

…なのに何だろう…この胸の違和感は…
あの妙な少女と出会ってから…何かがおかしくなり始めてるんだ…

こんな夢だって…しばらくの間は見なかったのに…
一体あの少女は何なのだろう…

今日いつもより寝過ごした理由を食事中ずっと考えてた。
いつもと違うのは彼女が傍に居た事と…久しぶりに俺は
人とじっくり話をして…沢山笑った…と言う所だった。

何年振りだろう…彼女には驚かされてばかりで…
ソレが俺の好奇心をくすぐり…腹筋を何度も痙攣させた。
その運動による疲労感…それが直接の原因…

そう考えるのが他のどの可能性よりも
真実に近いと思えた。

…彼女が居なくなると…また静かな生活が戻る。

嬉しい…筈…だろう?

静寂を何よりも好む俺だから…嬉しい筈なんだ。
彼女の居ない生活…一人の生活…煩わしくない生活…

喜ばしい筈の言葉を何度も頭の中で繰り返すと
胸の辺りにまた不快感が心臓の鼓動を圧迫した。

ふと壁の四方を取り囲んでいる本棚の中から
内臓について詳しく乗っている本を取り出すと
パラパラと捲り、見出しにこの症状に近い記述が無いか探す…が…

どこにも‘これだ!’と確信できるモノは載っていなかった。

本に載ってない…という事は新手の症状…
もしくは何らかの合併症…?
それとも…彼女の言う



‘本の中身を知る前に知る常識’とか言うモノなんだろうか…


【続く】
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